2019.09.05建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第17回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#17)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

オーディ・ヘルシンキ中央図書館(フィンランド、ヘルシンキ
Helsinki Central Library Oodi(Helsinki, Finland)

西側エントランス・ファサードを見る。右端(南側)の垂直の木製外壁が、左端(北側)の方向にいくに連れて捻りながら傾斜してエントランス・キャノピーを構成し、また戻って垂直になるという伸びやかな圧巻の迫力!

伸びやかにうねる巨大木製ファサードの迫力

ヘルシンキのフィンランドといえば、アルヴァ・アアルトの牙城とも言える北欧建築デザインのメッカ。もちろん巨匠エリエル・サーリネン、へイッキ・シレンなどの素晴らしい建築群もある。スティーヴン・ホールの「キアズマ」を筆頭に海外勢も増えつつある。そうした状況の中、2012年に募集が始まった「ヘルシンキ中央図書館国際コンペ」で544点の応募があり、その中から地元のALAアーキテクツが最優秀に決まった。
 
建物には3つのエントランスがある。エリエル・サーリネン設計の「ヘルシンキ中央駅」方向からのメインとなる徒歩来館用のサウス・エントランス。市民広場からの巨大キャノピーに覆われた西側エントランス。さらにファミリー・ライブラリーや映画シアターにアクセスするための北東側コーナーのエントランスだ。
 
デザイン上の特徴である巨大アーチ形木製エントランス・キャノピーは市民広場を多い、かつ1階レストランなどの機能を、パブリック・テラスは、来館者たちが使用できる大きなパブリック・アウトドア・スペースとなっている。そこは来館者にとってはお目当ての場所であり、人々との出会いの場所であり、またヘルシンキを見晴らす格好の場所でもある。
 
1階は国会議事堂側の街路を前にした市民広場が、図書館の1階にシームレスに溶け込んでいる。1階のフレキシブルな空間は、小さなイベントや大きな行事にもマッチしている。映画館や多目的ホールは、オープン・ロビー空間の一部として開放でき、また切り離して特殊なイベントに対応できる。彫刻的な木製表面をもつ巨大なアーチが、ドラマティックなブリッジのようなストラクチャーで1階を覆っている。このイノヴェティブな構造的な解決案により、建築のアクセス性や可視性を最大にする無柱空間を生み出した。
 
アティック(屋根裏)と呼ばれる2階は、フレキシブルでイレギュラーな形態の部屋や、ブリッジ・ストラクチャーのトラス群の間にある細かな空間によって構成されている。囲まれた空間群は騒がしい活動や静かな活動の両方ができるようデザインされている。オープン中央エリアにある段状の席は、キャンティレバーやねじれた西側ファサード・フォルムの結果である。
 
3階にあるブック・ヘブン(本の天国)は巨大なオープン・インテリア・ランドスケープで、上部はうねるクラウドのような白い天井となって迫力がある。ここではモダニスト・ライブラリーの魅力ある特徴が、最新テクノロジーの可能性と巧みに融合している。静穏な雰囲気が来館者を読書、勉強、施策へと誘い、満足感を与えている。周囲が全面ガラス張りのこのレベルより、来館者は市中心部への360度パノラマをエンジョイできる。
 
「ヘルシンキ中央図書館」は、ト—ロ湾界隈に創造された新しいアーバン・エンバイロメントに活気を生み出し、多様性を付加している。ここには老若男女全てに活動や体験をエンジョイさせ、人々が集い、共に時間を過ごす空間が多数ある。非営利的なパブリック・スペースとして、新しい図書館は、ヘルシンキ住民共通のリビングルーム、ワーク・スペース、学習環境となっている。
 
南西側方向からの俯瞰。ファサードの木製壁面がいかにねじれて3階のテラスを形成しているのが分かる。

広いポーチも有機的なキャノピーで迫力がある。正面右手の曲面屋根がスティーヴン・ホールの「キアズマ」。

エントランス・ホールを北側方向から見る。ダブル・スパイラルの階段の中に休息スペースがある。

南側から見たエントランス・ホール。フルハイトのガラス張りファサードで明るい。

2階の小空間の読書室。静かでプライベートな雰囲気で読書ができる。

3階のブック・ヘブン(本の天国)空間を南側から北側方向を見る。長大な白く透明な空間は明るく清潔感のある空間だ。

3階のブック・ヘブン(本の天国)空間を南側から北側方向を見る。長大な白く透明な空間は明るく清潔感のある空間だ。

3階北側にあるファミリー・コーナー。北欧はやはり木のデザインに長けているのか、達者なデザインが展開されている。

うねるような図書館の夜景。近隣のスティールとガラスの建築群に比べるとデザインの格差が歴然としている。

配置図

1階平面図

2階平面図

3階平面図

西側平面図

東西断面図

ALA Architects
Portrait: ©Tuomas Uusheimo
 
 
Photos: ©Tuomas Uusheimo
Drawings: Courtesy of ALA Architects
 
Design: ALA Architects
設 計:ALAアーキテクツ
著者プロフィール

淵上正幸 Masayuki Fuchigami
 
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)その他がある。