2019.10.04建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第18回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#18)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

バルティック(ポーランド、ポズナン)
Baltyk(Poznan, Poland)

夜景の北側から見た全景。交差点に建つ「バルティック」はこの界隈のランドマーク的存在。

ポーランドの歴史都市に建つ多面層ビル

ポーランド最古の都市のひとつポズナンは、中世ポーランド王国における最初の首都という長い歴史をもっている。MVRDVのデザイン・プロポーザルはこの歴史的敷地に対応したものである。かつて敷地には「バルティック・シネマ」が建っていたところで、その名前を取ってMVRDVのオフィス・プロジェクトは「バルティック」と呼ばれることになった。
 
延床面積25,000㎡の建物は、オフィスに12,000㎡、ワン・ルーム付きのパノラマ・レストランに750㎡、台座にある店舗に1,350㎡、他は地下3階の駐車場になっている。フレキシブルなオフィス・スペースは、奥行きが7mと浅く制限され、昼光がふんだんにワーク・スペースをテラスよう仕組まれている。ファサードはフルハイトのガラス張りで、グラスファイバー・コンクリートの垂直ルーバーを装備し、ヴィスタを遮ることなく太陽光を和らげている。
 
ポズナン中央駅と、空港へのハイウェイ近くにある交差点ロンド・カポニエラに位置する「バルティック」は、同市にとっては新しいランドマーク・オフィスで、コンテンポラリーな複合ビルである。「バルティック」は低層階と上層階をスムースにコネクトしたいというクライアントの要望を反映させ、かつ建物を近隣界隈に繋げ、さらに大胆な表情をもち、ヴォリュームに深みのあるデザインとしている。

大ヤゴナルなフォルムが南面でユーザー用段状テラスへと変換され、これが上昇するにつれて細くなってオフィスの面積が現象し、かわりに低層部のパブリック・スペースが広くなっている。建物はホテルをはじめ、改修されたコンコルディア・ビル、新しいクリエイティブ・ビジネス・センター、国際展示場ビル棟が近隣界隈にあるので、その利点を享受している。MVRDVは特に「バルティック」の建築面積をコントロールすることによって、建物西側外壁とコンコルディア・ビルとの間に植樹を施したアーバン・プラザを巧みに生み出している。建物のマッスは敷地の最大容積率や高度制度をいっぱいに使用している。
 
建物の最大の特徴は、東西南北どの方向から見ても全て異なる建物形態を見せていることだ。つまり建物外観が非常に複雑なため、アクセスする方向によっては千変万化のファサード表情を見せている。平面形は南北に長く、東西には薄くなっている。先述のように南面は段状にセットバックしていくテラスだが、北側ファサードはシャープに尖っており、北西側頂部には南面のセットバック・テラスよりは小さいが、パノラマ・テラスがてきている複雑さ。
 
エントランスは西側・東側両ファサードの中央にあたりの向かい合った位置にある。西側エントランス上部の2階レベルは3角形状に凹んでおり、そこにテラスが設けられている。ここからは目の前に広がるささやかさだが、MVRDVが捻出したアーバン・プラザを目の当たりにすることができる。なお「バルティック」はMVRDVの初めてのポーランド作品で、今後の東欧への試金石となる重要な作品である。
 
東側からの全景。左手の建物のエッジが段状になっているのは南面のセットバックするテラス。

西側からの全景。左端上部の北西側コーナーには小さなパノラマ・テラスができている。

南側のセットバックしながら上昇するテラス。

北側から道路越しに見たスリムな全景。東西南北側のファサードいずれもが、全く違う表情を見せている複雑な外観形態をもっている。

東側コーナー部分にはグラスファイバー・コンクリートが徐々に張り出して垂直ルーバーを形成し、強い太陽光をカットしている。

徐々に張り出してくる垂直ルーバーを見上げる。

建物西側にできたアーバン・プラザ。西側エントランスの2階部分が凹んでテラスとなって、この広場との対話を生み出している。

配置図 & 1階平面図

2階平面図

12階平面図

南北断面図

ダイアグラム

MVRDV(左よりヴィニー・マース、ヤコブ・ファン・ライス、ナタリー・デ・フリス)
Portrait: ©Barbra Verbij
 
 
Photos: Ossip van Duivenbode
Drawings: Courtesy of MVRDV
 
Design: MVRDV
設 計: MVRDV
著者プロフィール

淵上正幸 Masayuki Fuchigami
 
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)その他がある。